後片づけ

ひまつぶしにテレビをつけると、バラエティ番組で補聴器の工場を訪ねていた。べつに興味をひかれたわけではなかったけれど、日曜の昼下がりにこれといって見たい番組があるわけでもなく、軽めのノリに流されるまま、ただなんとなく成り行きを眺めていた。


できあがった補聴器をテストするために、試験室に音声が流れる。年配の、少したよりなさそうな女性の声が、耳元でささやく。


「あなた、フォークは左の抽斗にしまって。そっちじゃないわ」


と、突然笑いがまきおこり(たぶん芸人が愉快なことを言ったのだ)、かぼそい声の先端はかきけされてしまう。僕の耳の奥には、年老いた女の言葉が小さなあざのように残った。年老いた夫を諭す、ため息のような感情の切れ端。苦笑する夫。妻は黙りこくり、食器を片付ける音とラジオの声だけが響いている。午後のキッチンに射しこむ、冷ややかな光。薄緑色の三角コーナーに捨てられる冷めきったパスタの味を、僕は想った。