エイリアン

エイリアンには髪がない。ラージノーズ・グレイも、リトル・グリーンマンも、卵のようなつるりとした頭部だったと、遭遇者たちは証言している。この漆黒の夜空のどこか、遙かに高度な文明をもった異世界では、僕ら幼き人類の悩みなどとっくに解決されているのだろう。21世紀の地球に生きる僕は、いまだにこの頭から伸びつづけるスパゲティを持てあましているのに。

カットハウスの大きな鏡に、釈然としない顔が映っている。これはアートだろうか。アートならいい。でも僕はふつうの髪型にしてほしいと願ったはずだ。願うだけではダメなのか。いくら見つめてみても真偽が裏返る気配はない。鏡は都合のいいときばかり正直になる。いつまでたっても右と左は間違えるくせに。いかがですか、と理容師が尋ねる。何も言えない。なぜなら、それは決して問いかけなどではなく、「これで終了です」という意味に書き換えられた新しい日本語だからだ。言葉が通じないのなら、あとはもう途方に暮れるしかない。

君の首から上についているのは飾りか? 不出来な息子に呆れるあまり、父はよくそう言って苦笑した。いまなら言える。そうだよ、これは飾りなんだ。だから別に失ってもいい。頭なんていらない。こんな些細なことにいつまでも煩わされるのなら、熱い風が吹く、カラカラに乾いた惑星を彷徨って、僕はジャミラになりたい。


■See Jamira