通勤

めずらしく通勤時間帯に家を出る。電車はひと駅ごとにドアが開き、溜息のような音とともに僕らはホームを行きつ戻りつする。波間に揺られる貝殻のような気分、なんていう比喩はあまりに少女趣味かもしれない。でも、いずれ潮のうねりに連れ去られていく僕らにとっては、あながちハズレでもないだろう?
それにしても通勤電車というのは疲れるね。四方を女性に囲まれて、不可抗力の罪人にならないように細心の注意を払っていた。いま身分を問われたら、とてもじゃないけれど説得力のある受け答えをできる自信がないんだ。