ネコが逃げた

先日、駅前のスーパーに向かって歩いていたときのこと。僕の少し先をネコが歩いていた。べつにとりたててネコが好きというわけではないけれど、あの生きものの佇まいにはどことなく心惹かれるものがある(それから僕は犬っぽい犬を見るのが好きだ。この話はまたいつか)。
とにかくネコはマンションの駐車場からひょいと出てきて、僕の前を歩き出した。品種には詳しくないが、雰囲気からするとたぶん雑種だと思う。やけに悠々としていられるのは、たぶん後ろの存在に気づいていないからなのだろう。でもネコと人間ではやはり歩くスピードが異なるわけで、だんだん距離は縮まっていく。そしてあと5メートル、というあたりでハッとこちらを振り向くと(こちらもハッと足をとめると)、あわてて隣家の陰へと飛び込んでいった。おいおい、それは自意識過剰だろう。なにもしっぽを踏みつけようなんて思ってやしない。
でも、こういう自意識過剰さも生き残るためには必要なのかもしれない。ネコにしろ、スズメにしろ、危険を感じたらとりあえず逃げる、身を隠す。とてもシンプルな長生きの秘訣だ。それはヒトにとっても同じことで、君子危うきに近寄らずなんてよく言ったものだ。なんだか話が長くなってしまったけれど、つまり僕は、ネコも恐れる危うい存在というわけだ。なるほどね。その気持ちはよく分かる。僕だって、逃げられるものならとっくの昔に逃げている。でも、どうやら僕は自分で自分のしっぽを踏みつけてしまっているようなんだ。