厄介な問題

行きつけの理容室が店を閉めることになった。
外出ついでに訪ねてみると、いつものガラス扉に見慣れない貼り紙があり、この4月で閉店することが感謝の言葉とともに記されていた。学生のころから通っているので、もう8年ほどになるだろうか。ああ、まいったな、としばらく途方に暮れる。床屋とか美容室といったものを探すのはあまり得意ではないんだ。

食器の洗い方はこう。服のたたみ方はこう。この街ではこの店。あの街ならあの店。日々を暮らす中で、ひとつ、またひとつと、そんな決まりごとが増えていくだろう。こうすれば安心。まかせておけば大丈夫。その店で髪を切るということは、僕にとってまさにそんなルールのひとつだった。行きつけの床屋があるかないか、ということは、暮らしの軸を定める上で少なからず影響があるように思う。とりわけ僕のように地上で月面歩行をしているような人間にとっては。本当にどうすればいいんだろう。

答えの出ないままゴーゴーと頭を吸われ、散髪は終わり。1000円札を渡して店を出ると、雲が厚みを増している。ああ、そういえば雨が降るんだっけ。一応傘は持っているけれど、濡れたくないので家路を急ぐ。剃りたてのうなじに風が冷たく、思わずマフラーをきつく巻いた。