低気圧ボーイ

正午を過ぎても、まだベッドから起きあがれない。かろうじて窓をすり抜けてくる微弱な光。空気が重い。気圧が低い。何かが渦巻いているその気配を、からだが敏感に察知してしまう。いつかは僕の心の重さもヘクトパスカルやミリバールで予報されることになるのだろうか。上空を行く雲の軌道を想いながら、タオルケットをひきよせる。夢の中でバスが故障した。

降りはじめると厄介なので、しかたなく投票に出かける。記入用の鉛筆を持って帰りそうになり、やんわりと注意される。つかまって動機を問われたらどう答えていただろう。狭い部屋。ひんやりと冷たいデスク。押し黙る刑事。「気圧が低かったから」なんて、きっと小説のなかでも通用しない。外出ついでに喫茶店に寄り、鶏肉のサンドイッチを食べる。隣の席では、老人たちが話し込んでいる。「スターバックスはパンがまずい」「ドトールができたほうがうれしい」「知人がボケ防止にお店をはじめた」等々。おもしろいのでこっそりとメモを取ったが、いまこうして書き起こしてみるとそれほどおかしな話でもない。

冷蔵庫に入れておいたロールパンが硬く、小さくなっていた。